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俺の牽制など言葉遊びの一環として流され、今は体の中心に線を引くように薬指を下へ向かって伝わせている。見つけたばかりのお気に入りの場所を存分に味わいたいらしく、腰元に指をぺたりとつけ這わせ始める。その手のすぐそばで兆しているのは知っているはずなのに。
「はっ…んっ……」
思わず吐き出す息に音を混じらせた。どうしようもなく欲は溶け出す。こんなの生殺しに等しい。
「いい加減意地悪は…やめてください」
「俺の方が思うがままにされてるよ。いい年して、仕事中でも触りたくて我慢できない、とかな」
「嘘つき。…いつでも俺を放り出せるようにしてるくせに」
付き合い始めて、貝瀬が一番にしたことは店の扉によく響くベルをつけることだった。ドアノブをひねっただけでそれはちりんと良い音を立てる。『これでいつでも手が出せる』と、どこまで冗談なのかわからない調子で貝瀬は言った。今扉の鍵は開いている。ベルはいつ鳴ってもおかしくない。それでも貝瀬は指を動かすのをやめない。中指と薬指と小指、三本の指を波打たせるように何度も同じ場所に滑らせる。指が行き来するたびに、触れられた部分から刺激は波となって躰中に伝わる。
「客…きますよ…」
「早々こないだろ」
もう何もかもどうでもよくなって快楽に身を任せて抱きつき、脈打つ体を擦り付けていると、触れた貝瀬の下半身にやっと熱を感じてきた。
「…硬くなってきてる。口でしてあげましょうか」
「本気で店閉めないといけなくなる」
何気ない口調で言ってはみても、口でなんてしたこともないし、ましてや貝瀬をイかせたこともない。ゆっくり少しずつなどと処女みたいなことを言われていつもはぐらかされている。
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