ふれて

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バッグを置いて身軽になったので、さっきよりもリラックスしてごちゃごちゃを眺めることができる。 埃がこびりついたものや錆びたもの、古くなったものが混じり合い、独特な匂いを放っている。小さな箱やスタンプ、銀色のフォークやスプーン、無表情の小さな人形まであって、自分にはどう扱っていいのかわからないものが大半を占めている。 自分の誕生日の数字、9と書かれた小さな楕円のプレートを見つけ、何となくそれを買うことにする。レジに持って行って支払いを済ませると素っ気ない白い紙袋に入れて手渡された。袋に入れる前に男の手がするりとプレートの表面に触れたのがなぜか印象に残った。 「それ、何ですか?」 男の手元にあるものをじっと見て尋ねる。 「え?何って、リボン」 しっかりした体つきや大きな手が強調する男っぽさと、リボンという乙女なアイテムが結びつかず一瞬混乱する。遅れて、ブルーの台紙に紺色のリボンを巻きつける作業をしていることを理解した。確かに店には薄汚れたレースやシートに縫い付けられたボタンなど手芸用品も並んでいた。 「古いシルクベルベットのリボンって特別な手触りだよ。向こうから誘うんだ。今はこんなもの、どこにもない。触ってみる?」 店主の魅惑的な言葉と艶やかに光るリボンに誘われそっと指先で撫でてみると、ぞわっとするほど柔らかく、ふわりとしていながら滑らかな触感が手に残る。確かに今まで知らなかった手触りに、いつまでも触っていたい気持ちになった。 俺の表情が変わったのを見て取った男は、今度はふふっと明らかに笑った。さっきまで全くイメージの繋がらなかったベルベットの手触りが如く、その笑顔はしっとりと闇に染み込むようだった。
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