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「渉の手も触り心地良さそうだな。料理とかスポーツとか全くしないだろ」
そう言われて片手でもう一つの手の甲をさすってみるが、自分ではよくわからない。貝瀬の手が伸ばされ、『え?』と思った次の瞬間、今までリボンやら帽子やらを撫でさすっていたのと同じように触れられていた。
艶かしく指が曲線を辿り、直に触れた肌からそわりと背に刺激が伝わる。何かが解放されると同時に緊張を強いられる、妙な気持ちがした。触れられた部分に異様に意識が集中してしまう。手に触れられているだけだと言うのに、背徳的な気持ちで満たされていく。
「やっぱり。すごいきめが細かくて気持ちいい。」
柔らかな刺激を与え続ける手の動き以上に、ぞくぞくとこみ上げる快感に耐え切れず、さりげなく手を下ろし、逃れた。特別な意味などない。この人は触れることに執着があるのだ。
「あ、悪い。つい、触り心地の良さそうなものは触りたくなる」
悪びれない、もう聞き慣れてしまった貝瀬の声が解放された皮膚をひどく波立たせる。喉が渇き、息苦しい。
「あ、俺、銀行で現金引き出すの忘れてました。このジレ必ず購入するので、次に来る時まで置いておいてもらえますか」
自然とは言い切れない口調で告げ、店を後にした。
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