華に狼、月にお砂糖

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 あまりの騒々しさに佐藤が吠えるとギャラリーも心得たもので、ダッと一気に駆け去っていった。  乱れた呼吸を整えながら、佐藤はもう一度華を捕えていた手に視線を向ける。  業務中、よく見られていることを知っている。  視線を合わせようとするとすぐに逃げてしまうけれど、日々の反応を見ていれば……まぁ、その、脈アリなんじゃないかな、なんて、思う。  というか、そういうことであってください。  就活でやってきた時から、何事に対しても必死で真面目で、好ましい子だと思っていた。  入社してからしばらくたって、本人の意識していない挙動の可愛らしさを知った。  今はその無自覚さに悪い虫が付け入る前に、何としても自分が捕獲しておきたいと思っている。  まぁきっと、そんなことを思っている自分が一番の悪い虫……もとい、悪い狼なのだと言うことは分かっているのだが。  まぁ、なんといっても、僕の名前、司狼(しろう)だし。
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