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「木梨、例の書類」
「は、はい! こちらにっ!!」
「渡辺、例の商談」
「な、なんとかまとめますっ!!」
「秋田、例の発注」
「そ、そのことでご相談がっ!!」
「鈴木、例の彼女」
「い、今は関係ないと思いますっ!!」
その人は腕がもう2セットあるんじゃないかという勢いで仕事を回している。
彼の周囲1m範囲内だけ時間を早回しにしたみたいだ。
彼の名前は、佐藤。
役職は、課長。
平凡な名前のくせして、すこぶる有能な男。
そして私の憧れの君でもある。
不意に彼は腕を止めて私の方へ目を向ける。
合いそうになる視線をスッとそらして、私は電話に集中した。
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