手紙

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 あっ?  突如、少女が飛び込んできた。いや、違う。ぶつかってきたというべきだ。曲がり角とは思わぬ展開が待っているものだ。ぶつかった拍子に抱きしめてしまうとは。  俺の心臓がドクンと跳ね上がる音を耳にした。もちろん、俺自身の心臓の音だ。少女の鼓動が身体に伝わってきたわけじゃない。本当にそうか。少女との密着具合からしたら鼓動が伝わることもあるかもしれない。俺はいったい何を考えている。ちょっとは冷静になれ。舞い上がっている場合じゃない。  所謂(いわゆる)、これは出逢い頭にぶつかるというちょっとした事故だ。決して俺が突然少女を抱き寄せたわけじゃない。まわりに誰もいなかったことに感謝すべきだろう。通行人がいたら、白い目で見られていたはずだ。それに変態ではないと断言しておこう。  それにしても黒髪が綺麗だ。微かに鼻腔を擽(くすぐ)る心地よい香りもいい。  俺は何を考えている。これじゃやっぱり変態だ。犯罪に片足を踏み入れていると指摘されてもおかしくない。
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