手紙

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 んっ、どうしたんだろう。  だいぶ先まで走っていった少女が急に立ち止まったかと思うと突然振り返り会釈してまた駆け出した。ふと笑みが浮かぶ。好きになってしまいそうだ。だがすぐにかぶりを振って考えを改める。  いい年したオヤジが女子高生とだなんて犯罪じゃないか。どう考えたって父親と娘くらいの年の差がある。今時、そんな夫婦もいることはいるが。いやいや、ありえない。そんな思いに囚われてしまった俺自身を罵倒する。変な想像するものじゃない。  ただあの青白い顔色は気にかかる。あれは『死相』かも。  俺は嘆息を漏らして今頭に浮かんだ考えを振り払った。走れるのだから問題はないのだろうという最終判断を下し少女のことは忘れることにした。  あれ? なんだろう。  足元に何かが落ちている。手に取ってみると、それはヘアクリップだった。少女が落としたのかもしれないと、視線を走り行く少女へと向けたところすでに姿は消えていた。  返そうにもどこの誰なのかわからない。捨てるわけにもいかず、持ち帰ることにした。  家路に着き、とりあえず机の抽斗にヘアクリップを入れる。そんなに高いものでもなさそうだから捨ててしまってもいいのかもしれない。そうも思った。でも、やっぱり保管しておこう。もしかしたら、また出逢うこともあるかもしれない。近所だったらありえることだ。  だが、それきり少女と出逢うことはなかった。そして、時が経つとともに少女との記憶は頭の片隅に押しやられていった。 ***
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