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開発中であるシステムのテストが終わり、リリースを目前に控えた頃、寺坂が三日ほど出張で家を空ける事になった。
以前上げた金融系のシステムを一部新しくした所、正常に稼働しない部分が見つかり、独自開発を手掛けたソリューション事業部の責任もあって、当時のプロジェクトリーダーだった寺坂が出向く事を余儀なくされた。
寺坂を見送ってすぐに羽根田から連絡があった。
母親が緊急入院したので実家に急遽、帰らなくてはならず、申し訳ないがその間に猫を預かって欲しいと頼まれた。自分の父親は大事に至らずに済んだが、自分と同じ立場になった羽根田の状況が痛いほどよく分かった。
寺坂もおらず特に問題もなかったので快く引き受けた。
羽根田はスーツケースを引きながら、その上に猫のキャリーバックを乗せてやって来た。
「急に、ごめん」
ケージとトイレは急いで郵送してもらった。餌はこちらで用意していたが、羽根田も持って来てくれた。あれこれ説明を受けながら羽根田の不安を取り除き、きちんと面倒を見る事を約束した。
「本当に、悪い」
「いや、いいよ。猫好きだし、俺は逆に嬉しいから」
羽根田は助かるよと微笑んだ。
羽根田がいなくなった後、しばらくしてからキャリーバッグを開けたが、一向に出てくる様子はなかった。怯えさせるのは可哀想なのでそのままにした。
いつでも避難できるようにケージを開け、お気に入りの毛布をその中へ入れた。トイレと水も用意し、なるべく家と変わらない状況で落ち着けるように、少し距離を置いて様子を見た。
一日目は終始その調子で姿を見せなかったが、餌はきちんと食べ、トイレも使っていたので安心した。姿を見せると驚いて逃げるので、なるべく距離を置き、部屋でひとりになれるようにした。
二日目は会社から帰宅すると部屋で好きに過ごしていた様子がうかがえ、ホッと胸を撫で下ろした。相変わらず顔を見せるとケージの中へ逃げ込むが、毛の艶がよく元気そうだった。
ケージの上にバスタオルを掛けて外が見えないようにすると、安心したのかそこで寝るようになった。目を閉じてお腹を上下させる様子はかわいらしく、どれだけ眺めても飽きなかった。
やっぱり猫が飼いたいなと改めて思った。
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