「愛猫」谷崎トルク

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 週末、久しぶりにゆっくりできそうなので寺坂に連絡すると、昔の仲間とテニスに行くと言われ誘いを断られた。  羽根田にも電話してみたが繋がらず、仕方がないので近所のペットショップへ足を運んだ。  店の中に入ると、例の子猫がまだ売れ残っていた。近づくとつぶらな瞳と目が合った。指でガラスを撫でると小さな手でじゃれついてきた。何度かそうしていると店員に声を掛けられた。 「抱っこしてみますか? 何度か来店されてますよね?」  顔を覚えられたのは恥ずかしかったが、特に飼う予定がなくてもいいと言われたので素直に返事をした。  膝の上にシートを敷かれ、その上に子猫を乗せられる。両手で抱き締めると頼りなくてふにゃふにゃしていた。目が合うとにゃーと小さな声で鳴いた。 「かわいいですね」 「ええ。ラグドールは性格が温厚で懐きやすいですよ。暴れたりもしませんし、飼いやすい種類の猫です」  頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。毛が柔らかくて気持ちよかった。 「懐いてますね。この子はブルーポイントのバイカラーで、人気のある模様です」  額からハチワレの形で薄いグレーになっている。他の部分は真っ白だった。ラムネ色の瞳で見つめられると堪らないかわいさで手放したくなくなる。 「ラグドールはゆっくり時間を掛けて大きくなるので、育てるのが楽しいですよ」 「そうなんですね」  羽根田の猫は成猫だったので三年以上は飼っている計算になる。  飼いたいなと思ったが、不意に寺坂の言葉を思い出して暗い気持ちになった。しばらく撫でた後、後ろ髪を引かれながら店員に子猫を返した。 「また、来て下さいね」  笑顔で店員に言われ、店を後にした。寺坂はどうして猫がダメなんだろう。今度、理由を訊いてみようと思った。  駅ビルの中にある本屋に寄って、気になっていた作家の文庫本とビジネス本を買い、その足でコーヒーショップに寄った。  本を読みながら時間を潰し、部屋に帰った。
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