「愛猫」谷崎トルク

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 適当に夕食を済ませて部屋でごろごろしていると、夜になって寺坂から連絡があった。  しばらくすると寺坂が部屋に来た。 「何? 今日はもう来ないんじゃなかったの?」  半分、不貞腐れて言うと寺坂はおかしそうに笑った。 「明日も暇だからな。今日は泊めてくれ」  中へ招き入れると、ソファーに座ってビールを要求してきた。軽くムカついたが、お土産に好きな店のモンブランを買って来てくれたのでおとなしく従った。  寺坂はしきりにくしゃみをしている。 「風邪? さっきから酷いけど」 「いや……」  冷蔵庫から缶ビールを出して、グラスと一緒にテーブルの上に置いた。  寺坂のくしゃみは止まらず、目を執拗に擦っている。気になって寺坂の顔を覗くと、白目の部分が赤くなっていた。 「何これ? 目が変だけど、テニスのボールでもぶつけたの?」 「いや、なんか痒くて」  鼻水も出ている。額に手をやったが熱はないようだった。 「鼻の先も赤くなってる」 「なんか、花粉症みたいだな」  確かに花粉症の症状に似ている。けれど、六月にスギ花粉はおかしい。そもそも寺坂は花粉症ではないはずだ。 「この時期に?」 「……ほら、今は色んな種類の花粉があるからな。歳取ると体が弱って、色んなものに反応するようになるんだよ。全く嫌になるな」  ティッシュで何度も鼻をかんで、しきりに目を掻いている。 「外のテニスコートだったの?」 「ああ、山の中だったから、変な植物でも触ったのかも」  肌を見ると微妙に日焼けしていた。  目薬を渡したが、寺坂の調子は悪いままだった。気づかない内に何かが体に付いたのかもしれない。シャワーを浴びればと促すと素直に従った。シャワーから出ると症状は少しだけ治まっていた。  その日はおとなしく抱き合って寝た。結局、猫の話はできなかった。
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