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「羽根田さんはそういうの平気なの?」
「そういうのって?」
「恋人がいるのに合コンするとか……」
「ああ、そうですよね。でも僕は彼女が一番で、別に他を求めているわけではないので……彼女は嫌がるかもしれないけど、罪悪感とかそういうのはないです」
「なんだ。羽根田さんも結局、一途じゃないですか」
「まぁ、そうかもしれません」
羽根田はチーズを器用にフォークで掬って口へ運んだ。
「年上の彼女とは、上手くいってるの?」
「はい。少しずつ距離が縮まってきたというか、趣味も好きな食べ物もよく似てるんです」
へぇと適当に相槌を打っていると、急に羽根田の表情が曇った。
「どうかしました?」
「……いえ。ただ、なんとなくなんですが……他に男の影があるような気が――」
「それって二股掛けられてるって事ですか?」
「気のせいかもしれませんが……そんな気がするんです」
こんなイケメンと誰かを両天秤に掛けるとは、一体どんな女だと思ったが聞かない事にした。
詳しくは分からないが、相手は同じ会社の人間だとあの日、微かに匂わせていた。追及しても気まずい思いをするような気がしてやめた。
「羽根田さんなら大丈夫ですよ。たとえそんな事があったとしても、最終的には羽根田さんを選びますよ」
「そうですかね」
「俺だったらそうします」
「え?」
「ああ、俺がもし女だったらって事」
「あはは。すみません気を遣わせてしまって……ありがとうございます」
羽根田はチーズを口に含みながら甘めのワインを飲んだ。
「湊さん、もしかしてゴルゴンゾーラはダメでした?」
荒く削られたパルミジャーノには手をつけたが、ゴルゴンゾーラはひと口も食べていなかった。
「……白カビ系は好きなんだけど、青カビ系はダメなんです」
「なんだ、言ってくれればいいのに……」
俺がそう言うと、羽根田はすっと目を伏せた。
「湊さんって優しいですね」
「そうかな」
「そうですよ。あの日も慰めてくれたし、本当に感謝してます」
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