504人が本棚に入れています
本棚に追加
「篠田さんって、課長と仲良いんですね」
羽根田は早速、牽制した。明るく笑顔で言うので余計に恐ろしかった。勢いに任せて変な事を言い出さないかと気が気ではなかった。
「別に、仲良いってわけじゃ……同期だし、時々、仕事の愚痴を聞いてもらってるだけよ」
「へぇ」
篠田は動揺する様子もなく堂々としていた。女は怖いなと内心思う。涼しい顔でテキーラサンライズを飲んでいる。
「この店、よく来るんですか?」
「ここって、来た事あったかしら?」
篠田は寺坂に訊いた。寺坂はどうだったかなと誤魔化した。
「そうなんですか。何が美味しいのか聞きたかったんですけど」
羽根田はニコニコしながら続ける。
「お二人とも会社とは雰囲気が違いますね。篠田さん、凄く綺麗ですよ」
篠田は人差し指で唇を触ってわずかに微笑んだ。
「褒めてくれてありがとう。ここは照明が暗いから」
「そうかな」
羽根田は二人がお似合いだと揶揄した。
「まぁ、仲良いのは本当だけど、そういうんじゃないから。同期の女の子はみんな結婚して退職しちゃったし、残ったオバサンは私だけ。だから気楽に話せるのは寺坂くんだけなの」
篠田はあっさりと受け流した。メニューを開いて店員を呼び、慣れた様子で黒毛和牛の炙り焼きと真鯛のカルパッチョを注文した。
「篠田さんはオバサンじゃないですよ。ね、課長?」
「え? ああ、まぁそうだな。あんまり勘ぐらないでくれよ。ただの愚痴聞き要員なんだからさ」
寺坂は作り笑いをした。
「お二人には歴史がありそうですね」
羽根田は追及の手を緩めない。椅子の下で脚をつついたが効果がなかった。
最初のコメントを投稿しよう!