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「寺坂さん、待ってよ」
俺が後ろから追い掛けると、寺坂はしぶしぶ振り返った。
すぐにでもさっきの事を追及したかったが、寺坂に無理やりタクシーへと押し込まれ、二人で家まで帰る羽目になった。
タクシーの中でしきりに寺坂のスマホが鳴った。運転手がいなければそのスマホを取り上げて踏み潰す所だったが、なんとか思い留まり、仕方なく流れていく景色に目をやった。
ガラス越しに寺坂の顔が見え、はらわたが煮えくり返った。部屋に着くなり寺坂の首元に掴み掛かった。
「どういう事か説明しろよ」
「まぁ、落ち着けって」
小さな子どもをあやすように宥められて余計に腹が立った。
「二週間、連絡取れなかったのはあの女のせい? っていうか、寺坂さん女もイケるんだ」
「やめろ。おまえが考えているような事はないから、ひとまず落ち着けって」
「じゃあ、なんで連絡くれなかったんだよ」
「おまえも知ってるだろ。新しいプロジェクトが上手く立ち回らなくて、こっちは大変なんだ。上はスピードを要求してくるし、おまえのとこはコストを下げろって、そればっかりだろ。ホント嫌になるよ」
「メッセージぐらい返せるだろ」
「ちょっと連絡つかないぐらいでなんだよ。女みたいだな」
ヒス起こすなと罵られて頭にきた。胸元のシャツを掴み直した。
「女みたいで悪かったな。篠田さんはサバサバしてそうだもんな。やっぱりあの女の事が好きなんだ。そうなんだろ? じゃなきゃ、あんなに親しくしないもんな。二人で楽しそうに店に来て……なんだよ、ムカつく」
寺坂にその手を払われた。
「だから、そういうんじゃないって何度言ったら分かるんだ。篠田も言ってただろ」
「信用できない」
「じゃあ、俺はどうすればいいんだ。……全く、疲れてるのに勘弁してくれよ」
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