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八月に入り、忙しく中々連絡のつかなかった羽根田から電話があった。実家から梨が送られてきたので一緒に食べないかと誘われた。
寺坂から羽根田とは仲良くするなと言われたが、俺は変わらず付き合いを続けるつもりだった。
羽根田はノンケで、自分もそういう意味では全く興味がなく、たとえゲイだったとしても年下の羽根田には微塵も食指が動かなかった。
「部屋、綺麗にしてるな」
「いえいえ。掃除したんですよ、慌てて」
新しくはないアパートだったが、中は2LDKで広く、キッチンも寝室も独立していて使い心地がよさそうだった。玄関を入ってすぐに小さな部屋が二つあり、廊下を抜けた左右にキッチンとダイニングが続き、奥に明るいリビングが開けていた。
「うちは猫がいるんで、大変なんですよ」
羽根田はキッチンで梨を剥きながら話した。
「猫、いないね……」
「いや……隠れて出てこないんです。うちの猫、凄く臆病なんで」
しばらくしたら出てくるかも、と羽根田は続けた。部屋中を見渡したがいる気配がしなかった。がらんと開いたケージが寂しい。
「どうぞ、座って下さい」
促されてキッチンの横にあるダイニングテーブルへ腰を下ろした。瑞々しい果物の匂いがする。出された梨をフォークで口へ運ぶと、甘く爽やかな香りが広がった。
「仕事、忙しい?」
「ええ、毎日大変ですよ」
「あの後、大丈夫だった?」
例の店で別れてからきちんと話をしていなかった。
俺が寺坂を追い掛けて出た後、二人がどうなったか知りたい気持ちもあったが、自分に後ろめたい部分もあり、そっとしておいた。
「あはは。すみません、ご迷惑をお掛けして。……なんか俺の勘違いだったみたいで、恥ずかしいです」
「そっか。でもよかったよ」
羽根田も梨をひと口食べた。
「それにしても、あんな美人を落とすなんて、羽根田って凄いな」
「え? あ、ああ、そうですか?」
「そうだよ。篠田さんって、まぁ年上だけど綺麗だし、社内でも評判のやり手だから。才色兼備っていうの? 羨ましいなぁ。篠田さんと付き合いたいって男、いっぱいいそうだし……その年で落とせるのってある意味凄い。魔性のなんとか、かも」
「あはは。からかわないで下さい。たまたまですよ」
羽根田は嬉しそうに微笑んだ。満更でもなさそうだった。
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