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「大人で美人な女をモノにできるなんてなー。どうやって落としたの?」
「え? なんとなく……」
「なんとなく? 会社で、声掛けられた?」
「まぁ……そんな感じですかね」
「へぇ」
やっぱり喰われたのかと、心の中で自分の予想が間違っていなかった事を確信する。
確かに羽根田には母性本能をくすぐるような人懐っこさがある。
庇護欲を掻き立てるような素直で真っ直ぐな部分と、我儘な部分のバランスがよく、圧倒的に年上の女からモテそうだった。
付き合ってみると甘え上手で意外と小悪魔なのかもしれない。
「あ、この事は会社の人には言わないで下さいね」
「分かってるって」
羽根田が篠田をがっちり捕まえていてくれれば、俺の心配も減る。
寺坂にこの事を話したい気持ちもあったが、羽根田と会っているのを知られるのが面倒なので黙っておこうと思った。とにかく、あの女に自分と寺坂の仲を掻き回されるのだけは嫌だった。
「湊さんは、彼女と上手くいってるんですか?」
「まぁ、それなりに」
急に本棚の後ろでカタリと音がした。尻尾の先が一瞬見えた。
「ふぅちゃん、おいで」
羽根田が猫を呼んだ。猫はちらりと顔を出したが、俺の顔を見るなり本棚の後ろへ隠れた。
「あはは。かわいいな」
「すみません。怖がりで。せっかく見に来てもらったのに」
「いいよ。無理に近づいて怖がらせても、可哀想だから」
「何度か顔を見せてもらえば、覚えて徐々に懐くんですけど……とにかく時間が掛かるんです」
「猫ってそんなもんだよ。たまに、犬みたいにじゃれつく子もいるけど、そっちの方が珍しいし」
「ですね」
猫はその後、一切姿を見せなかった。存在そのものを消しているような警戒の仕方で、なんだかおかしかった。
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