「愛猫」谷崎トルク

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 寺坂を問い詰めてみようか。  さっきから何度もその思いが頭の中を駆け巡っている。  どんな言葉で問い詰めるか、どんな風に追い込むか、あらゆるパターンを考えて反芻してみたがどれも失敗に終わった。  もし問い詰めたら寺坂はどんな反応をするだろう。素直に認めるとは思えなかった。適当にはぐらかし、おまえの誤解だと窘められ、最終的には上手く丸め込まれるのが目に見えていた。  あの女と話してみるか。  寺坂が実は男もイケる変態なんだと分かれば、あっさり手を引くような気もする。おとなしく羽根田の元へ帰ってくれれば、俺もそれでよかった。  羽根田も俺も、とんでもない相手を好きになったものだと心の中で舌打ちをする。同じ会社というのが面倒くさい。寺坂のあの日の甘い声を思い出すだけでイライラが募り、いてもたってもいられなくなった。  納期明けまで待ってみようと思ったのは、寺坂の様子がいつもと変わらなかったからだ。  仕事が忙しいと会う回数は減ったが、会っている時は優しく不自然な所はなかった。心の中で、他の誰かにも好きと言ってるんだろと、叫び出したくなるような気持ちにもなったが、目の前にある体が自分の元から消えてしまう事を想像しただけで背中が冷たくなった。  嫌われたくない、失いたくない、こんな風に触れられなくなるくらいなら、あの女と共有しても構わない。  今までしてきた恋愛の終わり方とは違う――自分が一方的に捨てられ、必要とされなくなるのが怖くて仕方なかった。そんな終わり方は知らない。  もし捨てられたら、その後どうすればいいのか。想像もつかなかった。
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