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「疲れたよ」
出張から帰った寺坂はソファーの上に雪崩込むように座った。ボストンバックも足元に置いたまま、手の甲を目の上に置いて呻いている。
「大丈夫?」
コップにミネラルウォーターを入れてテーブルの上に置いた。寺坂は「あぁ」と答えてコップに手を伸ばす。ひと口飲もうとして猫のケージに目をやり、驚きの声を上げた。
「な……なんだよ、あれ。なんか中にいるぞ」
「え? ああ、猫だよ」
「……ちょっと待て。俺が猫嫌いなのは知ってるだろう? まさか、飼うつもりじゃ……」
「友達がニ・三日預かって欲しいって言うから、預かっただけだよ」
寺坂の嫌がる様子は尋常ではなかった。これでは猫を飼えない。残念だが諦めざるを得なかった。
「大丈夫だよ。明日には取りに来るはずだから」
「……そうか」
寺坂はコップを持ったまま固まっている。そんなに猫が嫌いなのかと呆れた。
「近づかなければ、襲ったりしないから」
苦笑交じりに言うと、寺坂は動揺しながら頷いた。
しばらくすると寺坂はしきりにくしゃみをし始めた。目が痒いのか指の先で目の縁を何度も擦っている。次第に酷くなっていく様子にある疑念が生じた。
寺坂は猫が嫌いなのではなくてアレルギーなのではないかと。
妙な胸騒ぎがした。
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