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「寺坂さんのそれって、もしかして猫アレルギー?」
「いや、よく分からないが……元々、動物は好きじゃない」
寺坂が声を上げると、ケージの中にいた猫がにゃーにゃーと二度鳴いた。そのままにしておくと鼻の先でケージの入り口を押し上げ、開けてくれと合図した。
何度もやるので、俺は仕方なく扉を開けた。すると、猫は満足そうな表情でケージの入り口から出てきた。
ずっと姿を現さなかった孤高の存在は、ようやく体全体を見せてくれた。
驚くほど美しい猫だった。全身がふさふさとした毛で覆われ、優雅で立ち姿にも品がある。サイダーのような色をした目とグレーの毛の色のバランスが素晴らしく、残りの白い毛は輝いて銀色に見えた。
「お……おまえ、この猫」
「え?」
寺坂は猫を見るなり絶句した。その様子にただ猫が苦手といった理由だけではない、何かを感じた。強い違和感だった。
猫は寺坂の顔を見上げるとにゃーと鳴いた。
猫は俺を無視してその横を素通りすると、ソファーに座っている寺坂に近づき、男の足元に躊躇なく鼻先を寄せた。額を甘えるように摺り寄せ、体の側面を擦りつけながら鳴く事を数回繰り返した。
――隠れて出てこないんです。うちの猫、凄く臆病なんで。
――何度か顔を見せてもらえば、覚えて徐々に懐くんですけど……とにかく時間が掛かるんです。
不意に羽根田の言葉がよみがえった。
そういう事か。
そういう事だったのか……。
寺坂に懐いている猫を見ながら、全ての答えが解けた気がした。
あの日、あの店で羽根田が嫉妬していたのは、恋人を取った寺坂ではなく、篠田自身だったのだと、つまり俺も羽根田も同じ相手に嫉妬していたのだと、急に視界が開け、絶望的な気分になった。
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