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「……何か、話してもらえますか?」
「はい?」
「さっきみたいな、くだらないというか……なんでもない話を」
「そうだな――」
羽根田はこちらの社員証を見て名前を確認した。
「湊さんは、恋人はいますか?」
突然、プライベートな話を振られて戸惑った。けれど、羽根田の顔に茶化すような雰囲気はなかった。
普段なら飲みの席でも話さないが、今の状況を誤魔化すにはそういう話がいいだろうと思い、適当に話す事にした。
いつもこの手の話題になると相手を「女」に置き換えて話す癖がついていた。そういう話題を避けすぎると後々、面倒になる。特別な努力が必要ないくらいには慣れ、当たり障りのない程度にやり過ごす事はできた。
「一応、います」
俺は適当に答えた。
「……愚痴でもノロケでもいいので、聞きたいです。……どんな方なんですか?」
「……そうですね……年上なんです。かなりって言ってもいいくらい上なんで、俺はいつも我儘を言って振り回してます。どこまで許されるのか試すような気持ちもあって……子どもですよね」
羽根田は微かに笑った。
俺は寺坂の本質的には優しい部分――子どものように甘やかし、可愛いがり、なんでも手放しで受け入れてくれる所が好きだった。
元々年上好きで、それを振り回すような恋愛しかしてこなかった自分には、ある意味ぴったりの存在だった。
「いいですね。僕は我儘を言いたくても言えないタイプで、いつも一人で悶々としてます」
「そうなんですか? そうは見えないですけど」
こんなイケメンでも思い悩んだりするんだと不思議に思った。羽根田に愛される女はさぞかし幸せだろう。どんな女がタイプなのか少しだけ気になった。
「羽根田さんはどうなの? 恋人いるの?」
「……はい。最近付き合い始めたばかりで、まだ相手の事がよく分からないんです」
「へぇ、でも、一番楽しい時期じゃないですか?」
「ええ、まぁ、そうなんですけど」
「どんな人?」
羽根田は一度、考えるような仕草をしてから口を開いた。
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