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「湊さんと同じで年上なんです。だからなのか、全部相手のペースで……自分を出せないというか……」
「でも、好きなんだ?」
「はい」
恋人を好きな気持ちが拙い言葉からひしひしと伝わってきて、かわいいなと思った。
俺も二年前はこうだったかと、寺坂と付き合い出した頃を思い出していた。いや、そうでもなかったか。羽根田の初々しい言葉に少しだけ反省した。
「彼女に連絡した?」
「え? あっ、いや――」
急に戸惑い始めた。スマホを入れたポケットを上から撫でて確認している。
「もしかして、同じ会社?」
「え? いえ、そんな事は――」
激しく動揺するので、それ以上追及するのはやめた。
「大丈夫ですよ。誰にも言わないですし、ここだけの話ですから」
「……はい」
早速、年上のお局OLにでも喰われたのかと思ったが黙っておいた。大学を出てまだ一年の、表情のどこかに子どもっぽさを残している男だ。これから色々と経験していくだろう。
不意に緊急連絡ボタンの横にあるインターフォンから声が聞こえた。
『誰かいますか?』
「二名閉じ込められています」
『二名とも無事ですね? すぐに一階まで降ろしますので落ち着いて下さい』
俺は羽根田と目を合わせてホッと胸を撫で下ろした。羽根田も深く息をついた――。
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