9人が本棚に入れています
本棚に追加
「なあ、今月苦しいんだよ。ホテル代もったいないから、おまえの部屋行こうよ。」
「嫌よ!だったらあんたの部屋でいいじゃない。」
あの女は、絶対に自分の部屋に僕を入れなかった。
それどころか、住所も、最寄りの駅すら教えてはくれなかった。
一方、僕の部屋はというと…
「馬鹿なこと言うなよ、家には…。」
「彼女が居るもんねー。」
そう、僕は彼女と同棲していた。
だから、あの女と会うにはホテル代が必要で…
僕は自由になる金のほとんどを、それに使ってしまっていた。
「あたしの家にだって、待ってる人が居るの。今日は私が払うから…ホテル行こ?ね?」
僕はこの時、あの女にも恋人が居ることを初めて知った。
お互いに遊びだったし、僕が言えた義理ではないのだが、
なにも知らされていなかったことに腹が立って…その日は、うんとヒドくしてやった。
もっとも、あの女は喜んでいたけれど。
しかしまあ…僕という男は勝手だ。
あの女に男が居るとわかってから、独り占めしたくて堪らないのだ。
僕は頻繁に女を呼び出し、夜遅くまで家を空けることが多くなった。
彼女には“仕事が忙しくて…”と時々弱音を吐いておいた。
僕を信じきっている彼女は、心配はしても、疑うことなどないだろう。
…信じきっていたのは、僕のほうだったのかもしれないがね。
最初のコメントを投稿しよう!