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そうなれば、僕の気持ちが向くのはあの女一人だ。
次の日、早速女を呼び出した僕は、コトの後にこう言った。
「彼女と別れることにしたから。」って。
「本当にそんなこと出来るの?あんたには別れ話も切り出せない気がするんだけど。」
女は笑ったけれど、僕には何も言い返せなかった。
確かに、うまくやれる自信がなかったからだ。
「ベッドの中では、あんなに強気なのにね…。」
女の顔が目の前に来て、にやりとする。
そして、抱きつきながら囁いたんだ。
「殺しちゃえば?」
恐ろしい言葉に飛び退きながら身を離すと、女はくすくすと笑って続けた。
「あたしもね、彼氏と別れたくてさ。
あの人ね…自分は浮気してるくせに、あたしには“品行方正”を求めてくるの。
それなのに退屈そうな顔しちゃってさ!頭に来るったらないのよね。」
「…はっ。おまえが…品行方正?」
こんな状況でも、本音は漏れてしまうものなんだな。
「失礼ね。“だから”外ではこんな格好してるのよ。
家に居る時は喋り方どころか、声まで違うわ。
こうでもしないと…頭がおかしくなりそうなの。」
女の表情は、微塵も嘘を含んでいないように見える。
「おまえが“しおらしい”ところか…見てみたいもんだな。」
少し話をしたせいだろうか…落ち着いてきた僕の顔が緩む。
「いいわよ…見たら死ぬほど驚くんだから。」
そう言って女はまた僕に抱きつくと、
今度は逃げられないように、腕で首を締め付けるみたいにして自由を奪った。
そして、子供をあやすように言うんだ。
「だから…ね?」
この女は、本気だ…。
僕はカラカラの喉に、幾何かの唾液を呑み込んでみたが、なんの足しにもならなかった。
僕はもう…女の言いなりだった。
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