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ふらふらとさ迷う僕の上着のポケットには、“毒”が入っている。
小さな紙に包まれた、よくわからない粉…それを、僕と女で一つずつ。
「おいおい、こんなの…どうやって手に入れたんだよ。」
「まあ、いいじゃない。それより…ちゃんと仲良くするのよ?彼女と。」
女は僕に、“まずは毎日家に帰って、彼女と食事をし、寝ろ”と言った。
「なんでそんなこと…。」
嫌がる僕を、女は見事に説き伏せた。
「そうしないで、いつ彼女に毒を盛れるっていうの?
今のあなたじゃ、何をすすめても“どうして急に”って疑われてしまうわ。
あたしと出会ってから彼女を蔑ろにした分くらいは、尽くしてあげることね。
そして…安心して飲み干してもらわないと。」
僕はただ頷くと、逃げるようにホテルを出た。
そして今、こうやって街を歩き回っているんだ。
彼女を殺すだって?
…時間が経てば経つほど、その恐ろしさが込み上げてくる。
そんなの、出来るわけない…
あいつだって、本当に自分の男を殺すかわからないじゃないか。
やるにしたって、あっちが先だ…そうでなければ…そうでなければ…。
それからの僕は、“いい彼氏”だったと思う。
定時に帰り、一緒に食事をして…同じ布団で…。
こうしておけば、どう転んでも僕は安泰だ。
その時が来たらやることも出来るし、来なければ…このまま、彼女との関係を続けることも出来る。
僕に損はないのだ。
もううんざりだと思っていた日々が、こうしてみると悪くない。
だが、それは“終わり”があるからだと女が言えば、そうかもしれないな…と思った。
…その時は、近付いていた。
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