第1章 アヴェルというもの

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(まさか手の甲にキスされるなんて…) さっきの事態に未だ混乱を隠せない朝日は、そのまま手を引かれ洞窟を後にした。 今は、長く続く枯れた森林の中を赤髪の彼と歩いている最中である。 (熊さんはまたいつでも来てくださいって言ってたな…) 金と茶色の混じった大きな体が懸命に手をふっていた仕草を思い出して、思わず朝日は微笑んだ。 さっきから赤髪の彼は全くこっちを振り向かない。前へ向き朝日の手を掴んでグングンと進んでいってしまっているのだ。 彼は恐ろしいほどに綺麗な顔をしていた。が、朝日には彼がどんな人物であるのか、分かりかねていた。 「あの、あなたのこと何と呼んだらいいですか?」 朝日は彼のその大きな背中に答えを問うた。 「何でも好きなようにお呼びください」 彼は手はそのまま引きつつ、振り返ろうとはしなかった。 「じゃあ、ルギアさんで!」 「どうぞ好きなように。」 「ルギアさんもアヴェル様なんて堅苦しいの止めて、朝日って呼んで下さい!」 「…いえ、アヴェル様はアヴェル様ですから。」 (…ちぇっ) 未だ頑なな王に朝日は無性に拗ねるような気持ちになった。こっちは堅苦しい思いもしたくないというのに。 元の世界でも朝日はとても人懐っこい性格だった。友達もとても多かったし、どんな人でも穏やかな性格の朝日とはすぐに打ち解けることができた。 「ここで晩を越しましょう。 今日中にこの森を抜けるのは不可能です。」 どれくらい歩いただろうか。 未だ枯れ果てた木々の景色は変わらず、ただただ同じ風景の道のりを歩き続けていたのだ。 もうかなり日が暮れて、茜色の空がそこには広がっていた。 (疲れた…。お腹すいた。)
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