第1章 アヴェルというもの

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目が醒めると、そこは夜だった。 手をついて起き上がろうとすると、枯れ草が生えていることがわかった。 カサカサと音がする。 見上げれば、月が二つ見える。 ここは確実に知らない世界であるというのに、守山朝日は、冷静であった。 ただ困惑することもなく、違う世界にいることを受け入れていたのだ。 何故こんなにも冷静でいられるのかーー。 守山朝日は、死んだのだ。 前の世界で間違えなく死んだ。 急行の列車に跳ねられた。 誰かから後ろから力強く背中を押されたことを、朝日は覚えていた。 痛みは覚えていない。 ただ強い衝撃が自分を襲った。 「死んだんだ、よなーー。」 ここは天国からどこかだろうか。 あの時自分の背中を押したのは誰だったのか。 何故、ここにいるのか。 今となってはもう調べる術もない。 受け入れているが、朝日は静かに絶望していた。 「ーー晃さん…。」 呟いた声は、闇に溶けて消えた。
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