第1章 アヴェルというもの

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近づいてくる地響きに恐怖を覚えながらも、心のほんの隅っこでこの世界で自分以外の人間がいたことに安堵していた。 これだから朝日は前の世界でもおとぼけものだと散々友達や晃に言われていたのだった。 しかし、予想していたものと違った。 地響きを響かせて近づいて来たものは、人ではなかったのだ。 『でていけ。人間。』 正体は大きな大きな熊だった。 テレビでしか見たことがないグリーズリーを大きく上回るデカさ。 おそらく5mはあるだろう。 金と茶が混じった美しい毛並みに、朝日の顔ほどの大きさもありそうな大きな爪。綺麗に生え揃った鋭い牙。こちらを睨みつける真っ赤な瞳。 朝日の姿をみてその熊はグルルル…と歯をむき出して威嚇した。 「くっ、熊が喋った!」 腰を抜かした朝日は、地面に手をついて後ずさりする。 そんな朝日を見て、あろうことかその熊は、むき出しにしていた歯を驚いたように戻した。 『俺の言葉がわかるのか、人間。』 大きな熊は手を地面につけてその大きな鼻を俺の方に寄せた。
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