第1章 アヴェルというもの

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熊さんが言うには、この世界には200年前から朝が来なかったらしい。 永遠の夜が、200年もの間続いていたのだ。 そのせいで草木は枯れ、食物は育たず、病気が流行り、人や動物は死んでいった。 人々の心は荒んでいた。 200年前は、人と動物は仲良く共存していたらしい。しかし、朝が来なくなってから、人々の心は病んでいった。 次々と森林を伐採し、動物を殺し、 今ではこの森にいる動物は200年前に比べて半分になってしまったそうだ。 「そんな悲しいことが…」 『しかし、アヴェル様。あなたが現れたからにはもう大丈夫です。』 あんなに怖い表情をしていた熊は優しく微笑んだ。 『この世界には朝がくる。長く続いていた人々との諍いもきっと、すぐにーー』 「ーーそこにいるのはだれだ!!」 聞こえたのは、大きな声。 声がした方を見ると立っているのは今度は明らかに人間だった。 その人はゆっくりと近づいてくる。 燃えるような赤い髪。 最初に目に入ったのはそれだった。 そして整った鼻に、薄い唇。 意思の強そうな目に眉。 ーーこんな整った顔の人がいたんだ。 感心したのもつかの間、 熊さんを見つけた彼は叫んだ。 「ディアヌス…っ!!5m級か!!」 一瞬怯んだ表情を見せた彼はその瞬間、 大きな弓矢を構えた。 『アヴェル様危ない…っ!』 熊さんは庇うように俺の前に立った。 ギリギリと限界まで弾かれた弦は、熊さんの心臓部を狙っている。 「ーーやめて!!」 そう叫んで俺は震える足と手で熊さんの前に立った。 「ーー…お前、人間か?」 驚き惚けたように彼はゆっくりと弓を引く力を弱める。 「お願い!!熊さんを打たないで!!」 そう涙を流して懇願すると、とうとう彼は体ほどもあるその大きな弓を下に下ろしたのだった。
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