25、駆ケ引キ

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25、駆ケ引キ

深見さんと非常階段で会話をした金曜日、帰りはバスを使わずにタクシーで帰宅した。 『繭子さん、ちゃんと家に帰ってる?』 悠馬から、そんな連絡も貰った。 仕事の合間を縫って、私が何事もなく無事に帰ってきたかを確認してくれる。 気にかけてくれるのはとても嬉しい。けれども、余計な心配をかけさせていると思うと申し訳なくなる。 翌日、土曜日も雨だった。 外出する気分になんてなれないから、私にはちょうど良い天気だったかもしれない。 雨音を聞きながら、静かに読書をしていた。 そして、 日曜日―… 昼前から一時間おきに鳴る着信をずっと家の中で無視していた。 夕方にはやっと鳴らなくなって、気分転換も兼ねて夕食の買い物に行こうとマンションを出ると、 「やっと、出て来てくれましたね」 「―…っ」 そこには今日の着信履歴に多く残る〝柘植さん”がいた。
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