53人が本棚に入れています
本棚に追加
それから冷酒が運ばれてきたけど、乾杯なんてしない。
「お願いです。話してください―…」
「今日、繭子さんとコンタクトを取ったのは、この件の事です」
そう言うと柘植さんは、A4サイズの茶封筒を取り出した。
「中身を確認してください」
「はい……」
この中に、いったい何が入っているというの?
恐る恐る中身を取り出すと、
「……っ」
それは、確かに私と悠馬にとって重要なものだった。
「これ……は―…」
「見ての通りです。その反応は覚えがあると捉えていいのですね?」
柘植さんは私に確認をしてくる。
茶封筒の中身は、私と悠馬が寄り添って写る写真。
木曜日の夜、あの出来事の後、マンションへと歩く私達の姿だった。
「どうして……こんな写真が……」
夜に撮られたものだから、少し画像は見にくい。けれども、私と悠馬だということは認識出来る物だと思う。
カメラが向けられていたとか、フラッシュが焚かれたという覚えもない。
悠馬だって、そういった違和感を感じているようにはなかった。
気付かなかった―…ということ?
でも、少なくともあの時の私は確かに余裕なんてなかった。
最初のコメントを投稿しよう!