25、駆ケ引キ

4/16
前へ
/40ページ
次へ
それから冷酒が運ばれてきたけど、乾杯なんてしない。 「お願いです。話してください―…」 「今日、繭子さんとコンタクトを取ったのは、この件の事です」 そう言うと柘植さんは、A4サイズの茶封筒を取り出した。 「中身を確認してください」 「はい……」 この中に、いったい何が入っているというの? 恐る恐る中身を取り出すと、 「……っ」 それは、確かに私と悠馬にとって重要なものだった。 「これ……は―…」 「見ての通りです。その反応は覚えがあると捉えていいのですね?」 柘植さんは私に確認をしてくる。 茶封筒の中身は、私と悠馬が寄り添って写る写真。 木曜日の夜、あの出来事の後、マンションへと歩く私達の姿だった。 「どうして……こんな写真が……」 夜に撮られたものだから、少し画像は見にくい。けれども、私と悠馬だということは認識出来る物だと思う。 カメラが向けられていたとか、フラッシュが焚かれたという覚えもない。 悠馬だって、そういった違和感を感じているようにはなかった。 気付かなかった―…ということ? でも、少なくともあの時の私は確かに余裕なんてなかった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加