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柘植さんの傍に居る道―…
本当に柘植さんは私を求めているということなの?
そして私が頷けば、悠馬にとって良い方向に向かえるというの?
「―…」
はい、も、いいえ、も、どちらの返事も出来ずにいる間、庭園に装飾されている鹿威しが二回音を立てた。
「少し話を変えましょう」
「……?」
「彼はどうして芸能の世界に入ったのかと思いますか?」
「どうして……って……」
〝成功の先に……本当に手にしたいものは……な、に……?”
私の中で悠馬をしっかりと感じながら、問いかけた言葉が蘇る。
それに対して悠馬が答えた言葉も。
「彼にとって憎むべき人間が居る場所へわざわざ飛びこんで来たということは、そこに何か思惑があったからでしょう。あの世界にいる一握りの人間になって金を得たいという気持ちもあるのでしょうが、その先にはきっと大きな目的がある」
「柘植さんは……それが何だと思っているんですか……?」
「ある程度、あの世界で有名になり注目度が高くなった時に仕掛けるんです」
「仕掛け?」
「例えば、〝自分は香美堂グループ創業者の長男である柘植悠基の隠し子である”と公表する、とかね」
柘植さんの言葉の後、
〝きっと、何よりあいつ等の悔しさに歪む顔だ”
あの夜の悠馬の声が聞こえた。
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