螺旋の指輪

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  * 高坂雪洋が教えてくれたこと。 治るか治らないか――ではない。 治らないと言われたらそこで終わり――でもない。 丘の上で、左手を太陽にかざす。 螺旋の指輪が、薬指で光を受けた。 「美咲はこれからどうしたいんですか?」 隣で雪洋が美咲を見下ろす。 図書館の契約更新は、やはりならなかった。 決して持病が原因ではない。 沢村は他言しなかったし、むしろ最後まで美咲を気遣ってくれた。美咲の指輪が薬指に移ったのを見て、おめでとう、と笑ってくれた。 沢村には感謝してもしつくせない。 「どうしたいか……ですか」 指輪をなでながら考える。 「何かやりたいこと、ないんですか?」 「うーん……。先生は?」 「私はありますよ」 「えっ、なんですか?」 「気持ちとタイミングが合うなら、結婚したいと思っていますが。どうですか?」 「結婚!? ――って、私と?」 「当たり前でしょう。他に誰がいるんです」 「……先生って意外とストレートに愛を伝えますよね」 「意外ですか? 私はここに指輪をはめた時からそのつもりでしたけど?」 美咲の左手を取り、薬指の指輪に触れる。 私、今、先生からプロポーズされてる―― 自覚した途端に、顔が熱くなる。 やれやれと眉を上げて見下ろす雪洋に、美咲は慌てて口を開いた。 「えっ、あの、じゃあ、先生のご両親にご挨拶しないと! こういうときって何着たら……。あっ、うちの親のお墓と、あと姉夫婦にも……」 雪洋が目を細めて笑っている。 「良かった。美咲の中ではもう結婚準備が始まっていますね」 こんなふうに、二人で将来の話をするなんて。 「……そうですよね。やりたいこと、やらなくちゃいけませんよね。せっかく白い道が続いているんだもの」 「そうですよ。美咲の好きなように生きなさい」 こんなふうに、未来に希望が持てるようになるなんて。 「でも結婚を保留にだけはしないでくださいよ。美咲はいつも――」 「はい、先生。わかってます」 雪洋の愚痴を止める。 「これからもよろしくお願いします。――病める時も、健やかなる時も」 空を見上げると、真っ青な空に、真っ白な飛行機雲が走っていった。 これから二人で歩んでゆく、長く白い道のように。   ――fin.――
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