第1章

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途端に、複雑な気持ちになった──本当は、わかっているんだ。部員をまとめるのは部長の仕事。幽霊部員がいるということは、それだけまとめられていないということ。美術室に戻り、奥へ進む。 「美術準備室」と札のかかった扉の向こうには美術部が使っている道具が置いてあり、一般の学生が入れないようになっている。2、3人なら描けるスペースがあり、私は普段そこで描いているのだ。私が筆を手に取ると、同級生の香織が話しかけてきた。 「唯花、何描いてるの?」 「香織は?」 「えー、内緒ー!唯花は紅葉?」 「あ、見たなー!」 私も香織のキャンバスを覗き込む。まだ少ししか塗っていない籠の中に、紫の円。そして傍らのビン・・・。 「葡萄?」 「そうだよ。唯花ほど上手には描けないけどね」 なんて、恥ずかしそうに言う。率直に言って、確かに香織は上手な方ではなかった。この絵のワインも、左右対称ではなく歪んでいる。しかし、そこは同級生のよしみである。何の非難する気持ちも湧かなかった。 「いいんだよ、絵なんて楽しめれば」 そう言うと、香織は「そんなこと言ったってなー、羨ましいは羨ましいわー」と再びキャンバスに向かい、「そういえば」と話題を変えた。 「高田くん、美術部やめるの?」 一瞬、木炭で描いていた線から筆がはみ出しそうしそうになった。 「そうなの?」 「いや、わかんない。でも、ライン退会してたよ?」 「まじ?」 「本当」  その夜確認すると、確かにグループから退会していた。展示会の連絡をした直後のことだった。しかし、彼をグループに招待したのは私だ。「友だち」の中に彼のアカウントはあった。  ──美術部部長の桑島です。お久しぶりです。今、秋の展示会に向けて作品を描いているのですが、美術部に顔出しませんか?  それだけ送り、天井を仰ぐ。彼が来なくてホッとするのは、腕の違いが顕著に現れるから?もう既に、作品は何度か同じ場所に並べられたことがあるというのに。 「上手な人との違いは、制作過程にも表れるからなあ・・・」 なんて一人言を言ってると、スマートフォンが反応があったことを告げた。意外と返事が早くて驚く。そこには、こう記してあった。
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