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私たちの教室のある1号棟から技術室などがある2号棟への通路をゆき、通り抜ける直前だった──それは、目に入った。
どこまでも深い夜に、ぽつりと灯る街灯。それに手を伸ばす少年。レンガ造りの町はとても寂しくて、しかしだからこそ街灯の明かりの優しさが映えたそれ──今年の春に新聞社主催の大会に出品した、彼の絵だった。その隣には、私の絵がある。
額縁の中では、陽光射し込むグリーンの森の中で、ユニコーンが舞っている。この絵の違い。もはや比べることのできないほど対称的な明るさを持った2作の勝敗は、どこで分かれたのか。この絵だって、決して手を抜いたわけではない──。
「こんにちは」
不意に声が聞こえて、振り返った。そこにいたのは、夜の絵の主。
「高田くん──」
彼は眠そうな目で自身の絵を見ながら、「これ、飾られたんですね」と言った。
「別に、飾らなくても良かったのに」
私の胸がチリッと音を立てる。「なぜ?」と問うと、彼は絵から目を離さずに言った。
「別に、選ばれたいわけじゃなかったから」
何かが沸き上がる。それが何かはわからない。しかし何とも言えない心地悪さを感じた。
「・・・そう」
呟く私の声は、驚くほど小さかった。彼はきっと、それに気づいていないだろう。
「この間描いたのは、どんな絵だったの?」
努めて明るく言ったつもりだ。しかし、暗いものがそこにあったのを、自分でも感じていた。
「・・・別に、教えるほどのものでもないですよ」
呼応するように、彼の声も低くなったように感じた。私は、そこに流れる空気に何も言えない。やがて彼から
「じゃ、授業が始まるので」
と会釈をしてその場を離れた。残された私の中では、チリチリと胸を焼く何かが肥大していた。
その日の放課後は、例の通りに展示会への出品作の制作だ。隣で、香織が無邪気に喋っている。
「ねえねえ、M新聞社大会に出したやつ、飾られてるの見たあ?」
「・・・うん」
正直、その話には乗り気ではなかった。しかし、その話はやめてと言うのも、私のわがままだ。
「やっぱ唯花は上手いわあ」
「・・・へへ。ありがとう」
努めて明るく。努めて笑顔で。そうすれば、大抵のことはやり過ごせる。
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