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見たことのない制服を着た女の子は私に目を止めて、目の前で立ち止まり遠慮がちにそう話しかけた。誰とも一緒に居ない、一人きりの女の子。小柄で、黒くて長い綺麗な髪の女の子。白い顔の中の長い睫毛に縁取られた吸い込まれそうな黒い瞳で私を真っ直ぐに見る。人形の様に綺麗な女の子だ。
「……うん。そうね」
「あなたは、皆の所に行かないの?」
「私はここで見ていればいいの。ねえ、あなた見かけない制服ね」
「そうね」
それだけ言ってしまうと彼女は黙り込んでしまった。何の為に私に声をかけたのだろうか。私の前から去る訳でもなく、彼女は隣にしゃがみ込んだ。意図が解らない。
「……あなたは皆の所に行かなくていいの?」
私の問いかける言葉に彼女は頷いた。
それから、中学生達の姿がすっかり見えなくなるまでの時間、彼女は私の隣でしゃがみ込んだままだった。特に何かを話すでもない。どうして私の傍に居るのか解らなかったけれど、口数の少ない女の子なんだろうな、と思った。
陽が建物の影にすっかり隠れそうな時間になって、もう私の前を過ぎる中学生もまばらになった頃に彼女は立ち上がった。
「……また、来てもいい?」
小柄な綺麗な女の子は私を見ないで真っ直ぐに前を見てそう言う。
「いいよ。ねえ、あなた、名前を訊いてもいい?」
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