ー前語り「街角」・少女ー

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 紫苑という小柄な女の子の後ろ姿を見送りながら、私はどれ位振りに声をかけられただろうかと考えたけれど、随分久しぶりだと思うだけで前がいつかだったまでは思い出せない。夕暮れのオレンジの陽が辺りを照らし、私は街角に一人きりだ。今まで遠くに眺めていた中学生の女の子達よりも、今日私に声をかけてきた紫苑と言う小柄で綺麗な女の子の声を私は反芻した。  中学生だと言うのに、随分と静かな話し方をする女の子だった。中学生の女の子なのに、目の前を通り過ぎてた女の子達とは何処か違う雰囲気だった。もっと、純粋な様な気がした。きっと、私とは違う感じの女の子。寂しそうにも見えた紫苑はどうして一人きりで、皆の所に行かないのだろうと思った。多分、笑ったら凄く綺麗で可愛いのに。  そう言えば、私は紫苑に名前を訊いたのに自分の名前を言っていなかった事に気付く。相手に訊いておきながら、名乗らないのはおかしかった。  そこまで考えて、ふと私の名前はなんであっただろうかと言う疑問に行き着いた。  妙な話だが、私は自分の名前がその時全く思い出せなかった。  私の名前は何だっただろうーー。  そう考えている内に意識が途切れた。多分、私は自分の家に帰って休んだのだと思う。皆がそうする様に家に帰った筈だ。
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