ー前語り「街角」・少女ー

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 いつもより視線が低くなると、時々前を行く人の足元しか見えない。顔が見えないのはそれでいいな。顔が見えてしまうと、表情にばかり気を取られてしまう。笑っていればいいけれど、興味無さそうだったり、苛ついていたり、怒っていたり。そう言う表情は苦手だ。私に直接向けられる表情ではなくても、一歩後ろに後ずさりたくなってしまう。  学校のチャイムがここまで聞こえてきた。しゃがみ込んで、行き交う人の足元だけを見ていたらもう放課後になっていた。私は立ち上がらずに、下校する中学生の足元を見た。足元だけ見ていても中学生の女の子はお洒落に気を使う子はすぐに見分けがついた。手入れされたローファーに合わせる靴下が可愛かったり、カジュアルにスニーカーを履いていたりする。立ったままだったら気付かなかった。  足取りだけでも、楽しそうな集団は解る。ステップを踏むように軽い。  私の目の前を通り過ぎる軽やかな足取りの女の子達の中に一人だけ重い足取りの子が居るな、と思って私は顔を上げた。同じ集団の中にいる一人が俯いていた。他の女の子達は楽しげに笑っているのに、一人だけおかしい。立ち上がって、私はその女の子達を見た。 「気になる?」  紫苑が私に訊いた。私は女の子達の集団が通り過ぎた後を見て、頷いた。 「どうしたのかな。一人だけ笑っていなかった」
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