第1章

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 その時だった。徹夜で疲弊しきった脳に閃光が奔った。  そうか。  確かにアスラマンは強い。だが、アートマン――俺には奴が持っていない強みがある。それはリトライができること、プレイヤーが諦めない限り、ゲームは何度でも挑戦し直せる。  そうだ。うまくいかないなら何度だってやり直せばいいのだ。その度に何か発見がありプレイヤーは成長できるのだから。そしていつか、最初は無理としか思えなかった相手にも勝てる日が来るはずだ。  カーテンの隙間から日が挿し込み、薄暗い部屋に挿した光がテレビ画面を照らしだす。俺は電源に伸ばした手を引っ込めると、再びコントローラーを手に取った。   もう一度だけ、今なら奴に勝てる気がする。  アスラマンは嘘のように簡単に倒せた。  クリアの文字が画面に表示され。エンディング曲が流れる。  もっと嬉しいかと思った。しかし、いざ実際にその時が訪れるとどうしていいか分からない。やった、よっしゃあ、とも何の言葉も出てこなかった。ただ心臓の鼓動だけがバクバクと体全体に響いていた。  それからというもの、俺はもうアートマン2をやってない。だけど、あの日のことはずっと胸の中で生き続けている。今はアスラマンではなく現実と言う名のボスキャラを倒すため、俺は今日もリトライし続けている。        完
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