第1章

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GAME OVER  テレビ画面には、その文字がデカデカと映し出されている。 「畜生。どうして倒せないんだ」  本日56回目になる叫び声を上げて、俺はコントローラーを画面に投げつけた。 「くそっ、次こそぜってぇ倒す」  やはり56回目の言葉を自分に言い聞かせ、コントローラーを手に戻す。気を取り直し乱暴にリトライを選択する。ピコピコと8ビット音が鳴って、ドット絵のヒーローがテレビ画面に現れる。  今、俺はゲームをやっている。それも最新のスマホゲームや高性能次世代機ゲームなんかじゃない。ファミコン――所謂レトロゲームという奴だ。それもここ最近ずっと。  きっかけか些細なことだった。  久々に帰った実家で埃を被っているファミコンを見つけたのがそもそもの始まりだった。その時、俺は色んなことに煮詰まっていて、何でもいいから何か気晴らしになることを探していた。  家へ帰ってきた俺は、ファミコンのスイッチを入れた。セットしたソフトはアートマン2。往年の名作ゲームで、ジャンル的には所謂横スクロール型のアクションゲームということになる。主人公である正義のロボット、アートマンが悪の天才科学者、ドクターブラフマンから世界を救うストーリーで、各ステージのボスキャラを倒しながらゲームクリアを目指していく。大昔、俺が小学生の頃に、大流行たゲームで勿論、俺も超ハマった。  久々にやったアートマンは懐かしく、やっているうちに感覚をすぐに取り戻して、次々にステージをクリアしていった。 「うっ」  だが、最終ステージに到達した頃、さっき流れるように動いていた俺の指が止まった。指が止まる度、画面にはゲームオーバーの文字が現れる。 「そうだよ。こいつがいたんだっけ……」  その文字を見つめ、昔を思い出した俺は苦々しく呟いた。  画面には六本の腕を生やしたドット絵のロボットが手を上下に動かして、自分の存在を誇示している。  アスラマン。  アートマン2の最終ステージのボス――所謂ラスボスという奴だ。トリッキーな動きと、様々な特殊能力によって、当時、多くの小学生を涙に暮れさせた。その強さは有名で、1の売り上げが好評だったアートマンが2以降の続編が制作されなかったのもコイツが原因だと言われている。 勿論、俺も涙に暮れた小学生の例外ではなかった。俺もアートマン2をクリアできないまま、じきに飽きてしまった。
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