第1章

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「面白れぇ、二十年越しのリベンジだ」 それから、二日間。俺はずっとアスラマン2に挑戦し続けている。どうせ、一昨日、バイトをクビになったばかりで、予定などありはしない。こうなると楽しいからというよりも、意地としかいいようがない。  最低限の睡眠と食事、トイレの時間以外はずっとアートマンをしている。  狭いアパートでは8ビット音とボタンを押す音しか聞こえない。   こうして現在に至る。 「また、やられた。でも今度こそ」  俺は57回目のスタートボタンを押した。  しかし、いくら時間をかけたところで、いや、逆にかければかける程、目的からどんどん遠ざかっている気がする。 「大体おかしいんだよ。このゲーム。ボスの能力値が高すぎるんだよ。こんなの端からっクリアできるわけないつーの」  コントローラーをを握ったまま、口から愚痴が漏れる。 「いつだってそうだ。能力のある奴にはない奴は敵わないんだ……」  カーテンが閉ざされた部屋で寝食も忘れてゲームに没頭する俺。既に着たままのスウェットは異臭を放ちはじめ、顎には無精髭が生え始めている。いつしか時間の感覚は失われ、ゲームと現実の境界は徐々に曖昧になっていく。  明滅する画面と規則的な8ビット音が脳を刺激していく。  ――いいかげん、夢なんて諦めて就職しなさい。  ――いい歳していつまでバイトなんかしているな。  ――今回のオーディションはダメだったよ。  ――そろそろ将来のこと考えた方がいいと思う。  ゲームをしている最中、脳裡にいくつもの場面が浮かんでは消えていく。 いつもそうだ。お前たち、俺の希望や夢を簡単に踏みにじりやがる。 画面の中のアスラマンを睨み付けて、コントローラーに力を入れる。   「マジか」  しかし、現実もゲームも思い通りにはならない。俺の健闘も虚しく、アートマンは本日58回目の爆死を迎えた。 「もうやだ。やってられるか。バカバカしい」  コントローラを投げて、その場に倒れ込む。 「くそっ、もうこんなクソゲー二度とやるか」  悪態をついて電源に手をかける。  画面には、さっきまでと同じくリトライの文字が点滅している。
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