不可侵聖域

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「ああそうか。君は求愛の言葉を知らないんだね?」  鳩尾に一発。愛の拳だよ。ほら、言うじゃないか。腹には悪いものがたくさん詰まっているから、吐かせたほうがいいって。  君は初恋だから正しい言葉を知らないんだ。僕としたことが迂闊だったよ。  僕は君の首を押さえ込み、耳元に唇を寄せた。 「好きな人にはね、愛してるって言うんだ」  たった五文字。僕を幸せにする魔法の言葉だ。  はじめて学ぶ君だって覚えられる、素敵な言葉だろう? 「愛してる。さあ、言って」 「……たすけ、て」 「言うんだ」  君には悪いものが憑いているのかもしれない。だとしたら大変だ、僕が騎士として君を守ってあげないとね。  こうやって首を思いきり締めれば、霊魂も苦しくなって口から飛んでいく。僕はスピリチュアルなものは見えないけど、親戚の叔父さんがそのクチだから嘘だとは言わないよ。  手の中の君は虚ろな目をしている。歪んだ真珠のような両目。  僕の手の中にある君が、人形みたいなお姫様になるまで。僕は何度でも戦いを挑むよ。王子様のキスでお姫様は目覚めるのだから。
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