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「俺が結婚出来ない事は、お前が一番分かっているだろう。俺はお前を抱いてやれない。」  しかし、真美はその方がいいと言った。 「私はあの人の事が好き。一生あの人の事を愛し続けると決めたの。でも、未婚のままの出産を両親は許さないと思うの。特に父は絶対に許してくれない。世間体をものすごく気にする人だし、それに、高校生の頃、男友達と一緒に出かけただけで、その相手の家柄を調査して財産目当てだから付き合いを止めろと怒鳴るような人よ。そんな父が貴方と付き合っていると言ったら、手のひらを返すように大喜びよ。それに、貴方にも悪い話じゃないと思うわ。一生、結婚せずにいられる立場じゃないでしょう。いずれ、家を継いだらその先を望まれるわ。次代をね。けれど貴方にそれは出来ない。私ならそれを叶えてあげられる。貴方の血は継いでいないけれど、ご両親を安心させてあげられる。世間的にも認められる。」  俺は大きくため息をついた。確かに、一理ある。俺には後継ぎを残せない。多分、今後、女を抱く事は無いだろう。見合い結婚をしたとしても、相手の女性を抱きもしないなんて、すぐさま離婚の危機だ。義務的に抱いたとしても、自分が苦痛なだけだ。その点、真美なら納得したうえでの結婚だ。俺との体の関係は望まないだろう。  ただ、俺は自分の子供ではない子を、愛情持って育てられるだろうか。他人の子だからと、お座成りになってしまわないだろうか。 「子供は夫婦で愛情持って育てるものだろう。俺は他人の子供を愛してやれる自信が無い。あきらめろ。それに、もし、相手と結婚できるようになった時、俺とは離婚する事になるだろう。その時、その子をどうするつもりだ。いっしょに連れていくのだろうが、俺の両親にどう説明する。後継ぎだからと手放さなかったら。」 「それは大丈夫。私とあの人が結婚する事は絶対に無いから。」 「そんな事、どうして言いきれる。」 「本当に無いから。」  真美は断言した後、目に涙を浮かべながら唇をかんだ。  ・・・。 「その子は降ろして、別の男との幸せを見つけた方が絶対にいいぞ。」 「それは無理。私にこの子を降ろす選択肢は無いわ。」  ・・・。
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