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「ごめんなさい。無理を言ったわね。他をあたるわ。」
真美はスクッと立ち上がった。
「待てよ。他をあたるって、誰にどうするんだよ。」
俺は咄嗟に真美の腕を掴んだ。
「そんなの分かんないわよ!行きずりの男を捕まえて、結婚してってお願いでもしてみようかしら。」
真美は逆上しながら涙をポロポロと零した。
「早まるな。わかったから。俺が結婚してやるから。」
俺は真美の切迫した感情に釣られて、咄嗟に了承してしまった。
しょうがない。
俺は腹をくくった。
その後は何もかも順調だった。お互いの両親に結婚の承諾を得、入籍し、真美の卒業後直ぐに披露宴を開いた。子供も無事に生まれ、すくすくと成長した。とても可愛かった。幸せな日々だった。
息子の春樹が三歳を過ぎた頃、夜遅くにも関わらず、春樹は俺の帰りを待っていた。俺の帰宅に気付いた春樹は、自分のベッドから抜け出し、俺の部屋を訪ねてきた。
「今日はパパと寝るの。」
そう言って俺のベッドに潜り込んだ。
「あのね、マーくんがね、パパとママは一緒のお布団で寝るのが決まりだよって言うの。」
マーくんとは春樹と同い年の近所の子だ。
「パパがね、お仕事で疲れたり、嫌なことがあったりした時にね、一緒のお布団でギュッとしてねんねするとね、次の日、パパは元気になって、またお仕事頑張れるんだって。ママにどうしてそうしないのか聞いたらね、パパは優しいから、寝てるママを起こさないようにしてくれてるって教えてくれたの。」
春樹はキラキラした目で説明した。
「それでね、僕ならお昼寝いっぱいしてるから、起こしても平気だよ。だから、僕がママのかわりに一緒のお布団でギュッてしてねんねしてあげるね。そうすれば、パパ、元気になるよね。」
そう言って、俺にしがみついて眠る春樹はとても可愛かった。その後、時々、こうして春樹は俺のベッドに潜り込んで来た。俺が仕事であまり遊んでやれなくても、俺の事を心配してくれるとっても優しい子だった。
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