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「あの時はショックでした。自分が好きになった人が父親だった。その父親と肉体関係を持ってしまった。男同士というだけでも、未だ世間的には認められない関係です。それに加えて、絶対のタブーを犯してしまった。心臓を鷲掴みにされたような気分でした。」  春樹の言うとおり、衝撃的な事実だっただろう。俺自信は血のつながった子供がいない事が分かっていたので、全く考え及ばなかったが、春樹にとって、父親と関係を持つ事は処刑台に立たされているような感覚だったかもしれない。 「正気に戻って出した結論が、これ以上罪を重ねない事でした。智樹さんは俺を好きで抱いたわけじゃない。俺が一方的に智樹さんを好きになっただけだから、智樹さんは悪くない。好きになってはならない人を好きになった自分が悪いのだから、この罪は自分一人で背負っていくと決めました。その為には、絶対に自分が智樹さんの子供だと知られてはならないと・・・。」 「そんな!」  春樹から聞かされた決意は衝撃的だった。俺の知らないところで春樹はつらい選択をしたと。だからか。俺の見せた調査書類に目を通してほっとした様子だったのは、悪事がばれていないからではなく、親子だと知られた訳ではなかったからか。 「春樹!」  俺は春樹を強く抱きしめた。 「すまない。本当にすまない。そうまで俺の事を思っていてくれたのに、俺はひどい事をした。一生かけて償うから。」 「その事はもういいですって。ちゃんと謝ってもらったし、誤解させた俺も悪かったし。」 「お前は全然悪くない。俺が一方的に悪い。春樹を傷つけて苦しめた。身体的だけじゃない。精神的にも苦しめただろう。俺はお前が傷つくと分かっていて態とああいった行為に及んだんだ。許される事じゃない。」
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