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俺は本当に悔いている。どうしてあんなに酷い事が出来たのか。愛していたからこそ、裏切られたショックが大きかったのは事実だ。だが、あんな事する必要無かったじゃないか。
「いいんです。あの時は智樹さんも精神的に追い詰められていたでしょう。智樹さんこそ辛そうでした。」
「春樹。お前は優しすぎる。小さい頃からそうだった。自分よりも相手を思いやるいい子だった。そんなんじゃ、損ばかりするぞ。」
「損なんてしませんよ。いつも、何倍にもなって返ってくるから、申し訳なくって。」
「何倍にも?たとえば?」
「岐阜に住んでいた頃は、学校帰りに老人の畑仕事を手伝ったら、食べきれないほどの野菜をもらいました。」
なんだそれ。学校帰りに畑仕事を手伝う事からして理解できん。
「この間は、道に迷っていた外国の方を目的の場所まで案内してさしあげたら、世界を飛び回っている方みたいで、現地のお土産が届くようになったし。」
ああ、時々届く、訳のわからない置物やお面の正体はそれか。
「ロビーで男性とぶつかって倒れた女性を庇ったら、豪華なディナーをご馳走になったし、野球観戦にも連れて行ってもらった。それも特等席で。沖縄旅行も楽しかったな。」
「春樹。あれは、親切へのお返しじゃないぞ。思いっきり下心だ。」
「下・・・。でも、あそこであの女性を助けなければ、智樹さんとはロビーですれ違っただけ。未だに無関係の赤の他人のままだったはず。」
確かに春樹の言うとおりだ。あの時の出会いが無ければ今は無い。
「智樹さん。あの時出会えてよかった。」
「俺もだよ。春樹。」
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