虎と龍とにゃんにゃんと

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 角を曲がると、突き当りのドアにlady'sのプレートが掛かったドア、そして右側のドアにはgentleのプレート。  その前に立っていた背の高い男の人が、あたしのやって来た気配に振り返った。 (……はぅっ……!?)  薄暗がりの中でもわかる、その人の整った目鼻立ちに鳥肌が立つ。  細身のスーツ姿から大人の男性だと思い込んでいたけど、意外にも若い。  ノーネクタイの真っ白なシャツには何かの模様の刺繍、しかもこんなイギリス紳士ご愛用みたいなハット帽を普通に一般人が被ってるなんて。  東京ってやっぱりスゴイ! 「……あんた、トイレ入るのか?」  その低い声とレモン形の少しキツい目がカッコ良すぎて、思わず背筋が凍りつく。 「は……はい、そのつもりです、けど……」  だってこの先はトイレしかないんですよ? 「ちょうど良かった。ツレが気分が悪いって入ったきり、出てこないんだ。ちょっと様子を見て来てくれないか。男の俺が女子トイレを覗くのもアレだし」  そう言って彼は心底困ったようにため息をついた。憂いを含んで伏せた目元がまたカッコ良くてポーッとなってしまうけれど。
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