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「あ、いや……なんでもねぇよ。じゃあ、悪いが頼む」
「はいー……」
トンと背中を押され、今度こそあたしは女子トイレのドアを開けて中に入った。
あまりのイケメンオーラと手を握られた余韻で、足元がフワフワとおぼつかない。
(はあ……びっくりした。あんなイケメンが街中のカフェに普通に野放しにされてるなんて。恐るべし東京ジャングル……!)
なんて言ってる場合じゃなかった。
具合が悪くなって動けなくなってる彼女さんの様子を看てあげないと。
トイレとは言ってもかなり広々としている。手洗い場の奥に三つの個室があったが、どれもドアは開いていて人影はない。
(おかしいな……。あ、こっちかな?)
見ると入り口の真向かいに『パウダールーム』と書かれたスイングドアがあった。
(パウダールームってお化粧直しするとこだっけ。そんなスペースまであるんだ)
スイングドアを押し開けたあたしの目に入ったのは、鏡が横長に広がった大きな化粧台と、その上にヘニャッと横たわっている……一匹の白い、子猫?
(…………)
思わずドアをパタンと閉めて、元の位置に戻ってしまった。
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