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「余の思ってたよりうさぎの芸は面白かった。玉乗りしながらお手玉をしたりマジックをしたり、話術も交えて余を楽しませた。だが、それにもやがて余は飽きた。うさぎの芸がネタ切れになると、余はつまらん、と正直に言ってやった。そして、その次の日になるとうさぎは死んでいた。誓いのとおり首を吊ってな」
律儀なやつだった、と王さまはつぶやいた。
さわさわと風に草が揺れている。
わたしの髪の毛もクシャクシャ揺れる。
ああ。王さま。
それでひとりぼっちなのね。
かわいそうに、かわいそうに……。
「さて。余はここら一帯を工事しなければならない。つまらぬ会話はしまいにしようぞ」
王さまがショベルカーに乗ったまま行ってしまう。
「ああっ、王さま、まって!」
わたしは叫んだ。そのとき。
前を進んでいたショベルカーが、ガクッと大きくななめに傾いた。
草むらにまぎれていた土手にタイヤが落ちてしまったのだ。王さまがショベルカーの運転席から転げ落ちた。
五メートル下には、コンビニのコンクリートで覆われた駐車場があって、立ち入り禁止のワイヤーロープが張られている。
そこへすべもなくただ落ちていく王さま。
続いて。
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