第1章

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 わたしは王さまの長いマントにしがみついていた。  落ちる前に王さまはコンクリート塀の上で止まった。 「あぶなかったね、王さま」  わたしの背負うランドセルがコンクリートから突き出している杭に引っかかっていた。  もしも、引っかからなかったら、私も王さまと落ちていたかもしれない。  王さまは草を踏んで立ち上がる。  それから、塀の下をのぞいてそこに張られているワイヤーロープを見つめた。  そこには首が落ちて、お地蔵様が二つになっていた。 「落ちていたら、余はあのつまらん地蔵のようになっていただろうな」 「うん。きっとそうだね」  ワイヤーロープは間違いなく王さまの首もすっぱり切っていただろう。  王さまは悲しそうに首のない地蔵を見下ろしている。 「あの地蔵は余と同じだ。この世界は余が処刑されることを望んでいるのかもしれぬ。……本当は知っているのだ。何よりもこの世で、一番つまらぬのは余自身なのだと。家来でも、大臣でも、后でも、うさぎのピエロでもない。本当に処刑するべきは余なのかもしれぬ」 「ううん、そんなことないよ。王さまはたのしいもの」
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