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わたしは王さまの長いマントにしがみついていた。
落ちる前に王さまはコンクリート塀の上で止まった。
「あぶなかったね、王さま」
わたしの背負うランドセルがコンクリートから突き出している杭に引っかかっていた。
もしも、引っかからなかったら、私も王さまと落ちていたかもしれない。
王さまは草を踏んで立ち上がる。
それから、塀の下をのぞいてそこに張られているワイヤーロープを見つめた。
そこには首が落ちて、お地蔵様が二つになっていた。
「落ちていたら、余はあのつまらん地蔵のようになっていただろうな」
「うん。きっとそうだね」
ワイヤーロープは間違いなく王さまの首もすっぱり切っていただろう。
王さまは悲しそうに首のない地蔵を見下ろしている。
「あの地蔵は余と同じだ。この世界は余が処刑されることを望んでいるのかもしれぬ。……本当は知っているのだ。何よりもこの世で、一番つまらぬのは余自身なのだと。家来でも、大臣でも、后でも、うさぎのピエロでもない。本当に処刑するべきは余なのかもしれぬ」
「ううん、そんなことないよ。王さまはたのしいもの」
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