チギリ~spring~

11/13
562人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
* 店を出て見上げた寒空は、もうずいぶんと明るさを遠くに押しやっていて、紫色の向こうの空に強く煌く一番星が見える。 ひゅう、と吹いた冷たい風に肩をすくめ、「大丈夫?」と声をかけた悟流に微笑み返していたあっきーな先生に呼びかけた。 「よかったの? あっきーな先生」 あっきーな先生は隣から見下ろす悟流と軽く視線を合わせてから、しっかりと手を繋いだ二人の間を抜くように振り返る。 「一応社会人だし、年長者だから……」 カラオケ店の受付前で、それまで絶対に離れないんじゃないかと思っていた二人の手が、一度だけ外された。 あっきーな先生は、悟流と申し合わせていたようで、オレ達のパーティー代の全額を出してくれたのだ。 「や。それもなんだけど……」 「うん?」 「カミングアウト……よかったの。悟流のわがままで無理に……」 「……ううん」 にこりと微笑む頬は、店の明かりの所為か寒さの所為か、ほんのり紅く色づいて見えた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!