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店を出て見上げた寒空は、もうずいぶんと明るさを遠くに押しやっていて、紫色の向こうの空に強く煌く一番星が見える。
ひゅう、と吹いた冷たい風に肩をすくめ、「大丈夫?」と声をかけた悟流に微笑み返していたあっきーな先生に呼びかけた。
「よかったの? あっきーな先生」
あっきーな先生は隣から見下ろす悟流と軽く視線を合わせてから、しっかりと手を繋いだ二人の間を抜くように振り返る。
「一応社会人だし、年長者だから……」
カラオケ店の受付前で、それまで絶対に離れないんじゃないかと思っていた二人の手が、一度だけ外された。
あっきーな先生は、悟流と申し合わせていたようで、オレ達のパーティー代の全額を出してくれたのだ。
「や。それもなんだけど……」
「うん?」
「カミングアウト……よかったの。悟流のわがままで無理に……」
「……ううん」
にこりと微笑む頬は、店の明かりの所為か寒さの所為か、ほんのり紅く色づいて見えた。
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