チギリ~spring~

2/13
562人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
. スラックスのポケットから、小刻みな振動がオレを呼んだ。 薄暗い小部屋の中、スポットライトの下でクラスメイトの仲良し女子三人組が、エアスタンドマイクを片手に、某アイドルグループの真似事をしている。 ノリノリの彼女らを囲むやかましい音響と、今日で見納めの制服姿の男女ひしめく小部屋から、防音の扉を開けて通路に出た。 扉を閉めると遮断された音響の余韻が、ちょっとばかり鼓膜を麻痺させていることに気づく。 相手の声が聴こえないほどじゃないだろうと、手に取った携帯のディスプレイを確認すると、 予想していた人物とは違った名前が表示されていた。 あれ、サユリ……? 「はいよー」 いつものノリで、まだ少し麻痺の残る耳に当てた携帯に応答した。 今日どうする?、と遠慮気味にたずねてくる物腰柔らかな声は、 一刻も早く会いたくて電話してきたくせに、それを見せないように振る舞おうとする健気なその可愛さで、オレの口許を緩める。 「あと一人まだ揃ってなくて。てか、悟流なんだけど……まだこっち来てねーんだよ。何やってんだあいつ」 そっか、とあきらかに明るく見繕う声は、自分が年上だからって我慢してるのがバレバレだ。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!