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スラックスのポケットから、小刻みな振動がオレを呼んだ。
薄暗い小部屋の中、スポットライトの下でクラスメイトの仲良し女子三人組が、エアスタンドマイクを片手に、某アイドルグループの真似事をしている。
ノリノリの彼女らを囲むやかましい音響と、今日で見納めの制服姿の男女ひしめく小部屋から、防音の扉を開けて通路に出た。
扉を閉めると遮断された音響の余韻が、ちょっとばかり鼓膜を麻痺させていることに気づく。
相手の声が聴こえないほどじゃないだろうと、手に取った携帯のディスプレイを確認すると、
予想していた人物とは違った名前が表示されていた。
あれ、サユリ……?
「はいよー」
いつものノリで、まだ少し麻痺の残る耳に当てた携帯に応答した。
今日どうする?、と遠慮気味にたずねてくる物腰柔らかな声は、
一刻も早く会いたくて電話してきたくせに、それを見せないように振る舞おうとする健気なその可愛さで、オレの口許を緩める。
「あと一人まだ揃ってなくて。てか、悟流なんだけど……まだこっち来てねーんだよ。何やってんだあいつ」
そっか、とあきらかに明るく見繕う声は、自分が年上だからって我慢してるのがバレバレだ。
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